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仙台高等裁判所 平成2年(ラ)56号 決定 1990年6月19日

抗告人 甲野太郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、門傳千代志、門傳達也、門傳和江に対する売却を不許可とする。」旨の裁判を求めるというのであり、その理由は別紙「執行抗告状」(写)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によれば、次のことが認められる。

(一)  原審裁判所は、本件競売事件において、売却許可決定別紙物件目録(10)記載の物件(以下「本件物件」という。)を含む物件につき期間入札の方法による売却を実施し、抗告人は本件物件につき入札書を提出し、右入札に参加したこと、

(二)  平成二年四月一六日の開札期日に開札が行われたところ、抗告人の提出した右入札書の価額欄には別紙のとおりの数字が記載されていたこと、

(三)  執行官は、右入札書につき、入札価額欄の記載に不備があるものとしてこれを無効とし、本件物件につき入札価額を「一五一万〇〇〇五円」として共同入札した門傅千代志外二名をもって最高価買受申出人と定め、原審裁判所は平成二年四月二三日本件物件外一件の物件につき門傳千代志外二名を買受人とする売却許可決定をしたこと

(四)  なお、入札書には「金額の記載を訂正したいときは、新たな入札書を請求して書き直してください。」との注意書きが不動文字で印刷されていること

2  期間入札の方法による売却手続においては、執行官の許に提出される入札書の記載のみに基づいて入札の効力が判断されるのであるから、入札書の記載はその記載自体から明確に読解できることが要請されるし、さらに不正を防止し、売却手続の公正を担保するという公益的見地からも入札書の記載、特に入札価額の訂正は厳格な方法によってなされなければならない。入札価額の訂正に関する入札書の前記注意書きは、入札参加者に右の旨を告知し、特に注意を喚起しているものと解される。

3  そこで、本件入札の効力について考えてみると、なるほど右入札書の価額は、はじめ「1,500,000」と記載され、後にその万の単位の数字を「0」の上からなぞるような形で「6」と訂正され、訂正印などは全くないが、本件の場合このような訂正が抗告人自らによってなされたものであることが認められないわけではない。したがって、抗告人は入札価額を「一五六万円」として入札したものと解することは可能である。しかしながら、

右のような訂正の仕方は一般的にも是認されていないし、入札書用紙において金額記載の訂正方法が特に注意書きされており、この注意書きの趣旨にも反していること、またこのような方法による入札価額の訂正を許すことになると、入札手続の不正にも連なりかねず、売却手続の公正を担保する上で問題があることなどからすると、右のような方法による入札価額の訂正は一律機械的に許されないものと解するのが相当である。

結局、本件入札書は入札価額の記載に不備があるものとして、これを無効とすべきである。

4  したがって、原審裁判所のした売却手続及び売却許可決定手続には、その主張のような誤りはなく、他に原決定を取り消すべき違法も事実誤認も見当たらない。

5  よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 武藤冬士己 松本朝光)

<以下省略>

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